プロ野球を観に行く観客は、何に対して対価を支払っているのだろうか。推しチームの勝利? いやいやプロ野球のリーグ優勝ラインは勝率6割以下で、40%のGAMEは負けることになる。商品として提供されているのはGAMEだ。その勝敗によって価値は変わるが、勝利することを約束してはいない。時に負けた試合でも、逆転に次ぐ逆転でとても面白いGAMEの場合もある。反対に一方的なGAMEになり主力選手から若手に交代させてしまう場合もある。勝敗が全てではなく、GAMEの内容が顧客満足度に大きな影響を与えていることは幾つかの論文で立証されている。
またスタジアムで提供されるサービス、椅子の心地よさ、飲食店の品質、清潔であること、などに関する論文もある。
この論文では広島カープが長い間弱かったことに注目して、カープファンは勝敗以外の価値にも重視していると仮設を立てている。
①カープファンは試合と関連の低い球場体験への評価が高い
②他の球団のファンと比べて,試合成績より観戦体験を重視している
③観戦体験から一体感の便益をより強く受けている
④球団グッズを通して自己表現という便益をより強く感じている
⑤カープファンの顧客満足度は野球観戦に対する全体的な品質評価から影響を受けている
⑥カープファンはソーシャルメディアへの関与度が高い
⑦球団・ファンに対する協力的行動意向が高い
⑧チーム・ファン同士の同化意向が高い
⑨選手や球団,地域に対するコミットメントがより強い
⑩カープファンの試合評価は顧客満足度・ロイヤルティに因果関係の影響を与えない
という仮設を立てて検証している。
結論として著者は、
「スポーツビジネスおける重要なポイントは,「予測の出来ない勝敗」を提供する特殊な領域であり,顧客ロイヤルティを維持・向上させるためには,ファンの求める便益を理解した上で,観戦体験をより楽しませるための周辺サービスを充実させ,有形性と無形性のサービスを組み合わせたハイブリッドな顧客経験を提供することが必要であるといえる。」と記し
A、野球コンテンツ,観戦体験
B、観戦席,応援グッズ
C、飲食サービス,イベント
D、ソーシャルメディア
上記4項目が、プロ野球観戦時に重要視されるコア・プロダクトだったと結論づけている。
プロ野球ファンのロイヤルティ形成に関する因果モデルの構築― 広島東洋カープ,横浜DeNAベイスターズ,読売ジャイアンツの比較事例研究 ―田中 江里華 |
抄録 日本におけるスポーツビジネスの発展は重要な課題であり,野球単体で黒字化が難しいプロ野球業界では近年マーケティングの活用が進められてきた。一方で,広島東洋カープは12球団中唯一親会社を持たず45年間黒字を継続している。本研究は,その長期的競争優位の因果構造を,JCSIの枠組みを用いてロイヤルティ形成という視点から考察する。読売ジャイアンツ,横浜DeNAベイスターズを比較対象とし,因子分析と共分散構造分析で定量的に研究した。その結果,各ファンが評価する球場体験,球場サービスの便益の違いが浮き彫りになり,カープファンは観戦を通したファン同士の繋がりと自己実現を評価し,成績に左右されない顧客満足が実現できている事がわかった。さらに,三球団に共通して試合に関する要素が顧客満足やロイヤルティに強く影響する一方,試合と関連の低い球場体験は顧客満足に影響すると言いきれない事と,ロイヤルティが同化意向,協力的行動に影響している因果構造が明らかとなった。顧客の求める価値を理解し,主観的・客観的な便益を強化することが,企業と顧客の高次で長期的な関係性に寄与すると示唆された。 |
田中江里華. "プロ野球ファンのロイヤルティ形成に関する因果モデルの構築―広島東洋カープ, 横浜 DeNA ベイスターズ, 読売ジャイアンツの比較事例研究―." マーケティングレビュー 2.1 (2021): 3-12. |