社会問題

【書籍紹介】ゼミナール マーケティング入門 

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ゼミナール マーケティング入門(日本経済新聞出版 (2013)
470ページ 3520円

マーケ入門

題一部 マーケティング・マネジメント

「高度な技術を確立すれば、あるいは優れた製品を開発すれば、事業は成功する」という思い込みを脱することが、マーケティングを理解し、実践するための第一歩である。

たとえば、1990年代に爆発的にヒットしたナイキのスポーツシューズには、先進的なシステム。エア・システムが搭載されていた。エアは、ガスを封入した袋状のものをソールに組み込む技術で、優れた衝撃吸収性、瞬発性、安定性を特徴としていた。
エア・システムにかかわるナイキの革新は、「技術の革新」というよりは「マーケティングの革新」だった。エア・システムの技術を開発したのは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の技術者だった。最初、この技術はアデイダスに持ち込まれたが断られ、ナイキが買い取ることになった。ナイキの最大の貢献は、この技術に優れた表現を与えたことである。
ナイキは、ソールの側面にシースルーの窓をつけ、ソールの中が見えるという革新的なデザインを開発した。また、NBA(全米パスケットポール協会)の人気選手だったマイケル・ジョーダンと、彼の名前をシューズに使用するという前例のないスポンサー契約を、破格の金額で結んだ。エア・システムは「エア,.ジョーダン」というプランド・ネームを与えられることで、宙を舞いダンクシュートを決めるジョーダンの姿を、人々に想起させる製品となった。そして、この連想が単なるイメージやムードでないことを、シースルーの窓が雄弁に語りかけていた。さらに、ナイキは、その哲学や理念を伝えるために、ナイキ・タウンと呼ばれる、ショーアップされた巨大なストアをオープンした。
デザイン、プロモーション、ストアに見られるナイキのマーケティングの革新性の焦点は、卓越した技術に優れた表現を与えることで、エア・システムの価値を誰の目にも明らかなものとした点にある。事業創造は、技術そのものの卓越性ではなく、それが顧客に認識され、評価されることによって初めて達成される。ナイキは、一辿の活動を通じて、この覇客との関係を新たにつくり出すことに成功したのである。
第1章の前半では、さらにいくつかの事例を見ることで、この罰客との関係を創造し維持することの重要性を確認していく。いかに高度な技術カ・製品を有していても、マーケティングの的確な実践がなければ、事業を成功へと導くことはできない。

1-1 マーケティングの役割
1-2 マーケティング・マネジメントの基本的枠組み
①製品 ②価格 ③流通 ④プロモーション
1-3 マーケティング・マネジメントの構造
1-4 マーケティング・マネジメントのプロセス

 

第二章 価値形成のマネジメント

第1章で提示したように、マーケティング・マネジメントのエッセンスは、製品、価格、流通、プロモーションの4つのカテゴリーにかかわる企業活動を、内的・外的の2つの局面において整合化するという考えである。とはいえ、この4つのカテゴリーにかかわる手法や活動は、まったく同じようにマネジメントできるわけではない。製品、価格、流通、プロモーションの各カテゴリーは、共通の課題に対応するために、それぞれが独自の論理のもとでデザインされる。
第2章と第3章では、マーケティングのなかで、製品、価格、流通、プロモーションの各カテゴリーが担う独自の役割と、それらを構築していくにあたって検討すべき重要な事項について検討していく。
まず、第2章では、「製品」と「価格」にかかわるマーケティングの主要な問題を検討する。
顧客から見たとき、企業の価値は、その産出物を購買することによって得られる便益と、購買に要するコストとの差によって規定される。製品・サーピスとその価格をどのようにデザインするかによって、この企業が顧客に提供する便益とコストにかかわる基本的な条·件が決定する。
これは、企業が顧客との関係をつくり出していくうえで、避けて通れない問題である。近年でも、ユニクロやスターバックスなとのように急成長を遂げることができたビジネスでは、顧客にとって魅力的な製品・サーピス、あるいは価格の新しいデザインが確立されている。
もちろん、企業が提供する便益とコストの構造は、製品・サービスや価格のデザインに加えて、流通やプロモーションのデザインによっても影態を受ける。この後者の問題については、第3章で取り上げていくことにする。

2-1 製品・サービスとは何か
2-2 新製品・サービスの開発プロセス
2-3 アソートメントのデザイン
2-4 価格の役割
2-5 戦略的な価格デザイン

第三章、価値実現のマネジメント

ものごとは多面的にとらえなければならない。たとえば、われわれは、ソニーの創業時を振り返り、同社をトランジスタ・ラジオを開発した先駆的な企業ととらえる。しかし、ソニーが成し遂げた革新のポイントは、真空管に代えてトランジスタを組み込んだラジオをいち早く開発したことよりも、それをいち早く社会に将及させたことにあると考えることもできる。
新事業の創造には、「開発」と「普及」という2つの取り組みが必要であり、そのどちらが重要かを論じることにはあまり意味がない。マーケティングにおいてはそのどちらも欠かせないからである。本書は、この前者の開発の局面を「価値形成」、後者の普及の局面を「価値実現」と呼んでいるが、問題は、われわれが開発ばかりに目を奪われ、普及の重要性を見落としがちなことである。このことは強く意識しておいたほうがよい。
価値形成の局面は前章で取り上げた。この章では、価値実現にかかわる「流通」と「プロモーション」の問題を取り上げる。流通とプロモーションは、開発された製品・サービスを、広く社会に普及させることにかかわる。この価値実現にあたっては、製品・サービスが多くの人々に必要とされる機能を備えていることだけでは十分ではない。それに加えて、人々が製品・サービスを購買するためにアクセスする拠点と、製品・サーピスに関する情報とが広く社会に行きわたっていなければならない。そのために、企業は、流通チャネルの構築と、戦略的な情報の訴求に取り組むのである。

3-1 流通チャネルの機能と煩型
3-2 流通チャネルのデザイン
3-3 メッセージの選択
3-4 メデfアの選択

 

第二部 事業組織のマネジメント
第四章 マーケティング組織のデザイン

マーケティングの遂行には、組織のマネジメントが欠かせない。マーケティングとは、新製品開発や広告、そして営業などのさまざまな活動の集合であり、それらを担う人々のチームプレーのうえに成り立っている。個人企業にはマーケティングが不要だというわけではないが、その出自を考えると、マーケティングは組織戦のための知恵としての色彩が濃い。
歴史を振り返ると、20世紀初頭に確立された大量生産方式は、企業組織の規模の巨大化と手をたずさえて発展していった。このビッグビジネスの世界では、顧客との関係についても、その創造と維持のための仕組みを組織化していくことが成功の鍵だった。こうした時代背景のなかで、マーケティングという新しいピジネスの理論が生まれたのである。
第I部では、マーケティングの碁本的な構成要索と、それらを統合的にマネジメントするための枠組みを見てきた。第Ⅱ部では、さらにそれらの活動を、企業という組織体のなかで遂行しようとするときに、マーケティングの担当者はどのような問題に直面するのかに目を向ける。
企業という組織体は、人の集団である。人の集団を通じてビジネスが遂行されることの本質的な意味は、協力して働くことによって、個人がひとりひとりで行動することの限界を超えることにある。本章では、この協働の場として組織をデザインしていくことを考える。本章ではまず、組織のデザインにかかわる基本的な枠組みを提示する。そのうえで、組織のデザインの問題が、マーケティング組織のなかにおいて、どのように穎在化してきたのかという歴史を追う。

マーケティングが、企業という組織体によって遂行されることから生じるマネジメントの課題は、組織のデザインの問題だけではない。さらに企業という組織体には、人材や技術、資金をはじめとするさまざまな経営資源が蓄積されている。この経営資源を、さまざまな製品・サービスのマーケティング活動に対してどのように配分するのか、という問題がある。これは、個々の製品・サービスのレベルというよりは、最高経営者のレベルで対応すべき問題である。重要なのは、この資源配分を巧みに行うことで、個々の製品・サービスのマーケティング・マネジメントだけでは克服できない問題が解決されるということである。この資源配分の問題については、第5章と第6章で取り上げる。

4-1 組織をザインするための3つの要件
4-2 マーケティング組織の発展プロセス
4-3 マーケティング業務の専門化と統合化
4-4 市場志向の組織の基本類型

 

第五章 マーケティング資源の分配

第五章と第六章では、資源配分の問題を考える。その鍵となるのが日ポートフォリオ」という概念である。ポートフォリオとは、もともとは、株式投資家が所有する株券をファイルしておくフォルダーのことだった。これが転義して、所有する株券のリスク(成長性)と収益性をひとつのファイルにまとめたもの―という意味をもつようになった。
たとえば、投資家が株に投食する場合、安定株のみに投資するとリスクは少ないが、その分、収益性も低くなる。かといってリスクの高い成長株だけに投資すると、多くの収益が得られるかもしれないが、元手を一気に失ってしまう危険性もある。そこで、投資家は、安定株と成長株をバランスよく組み合わせて保有し、そこから、最大の安定した収益を得ようとする。このようなリスクと収益性のバランスを考えた投資の組み合わせが、ボートフォリオである。
企業も投資家と同じように、今日の効率性と明日の成長性をバランスさせながら複数の製品(事業)を組み合わせ、そこから最大かつ安定した収益を得ようとする。これを、投資の世界のポートフォリオと区別するために、「製品(事業)ポートフォリオ」と呼ぶ。
たとえば、X線技術を使ってX線診断機をつくり、病院に納める事業を展開している企業を考えてみよう。同社の事業がこれだけなら、製品ポートフォリオを組む必要はあまりない、せいぜい東京事業部や大阪事業部というように、地域別に事業を分けるくらいだろう。だが、その後、貪欲に事業を拡大したとする。
①当初、病院に納めていたX線診断機に加えて、②超音液診断機を導入し、続いて③診浙用の化学的試薬を、そして、④開業医向けに小型X線診断機も導人した。さらには、⑤X線技術を応用して税関向けの手荷物検査椴もつくった。その結果、同社は、5つの製品事業をもつことになった。
さて、このとき同社は、これら5つの製品事業に自社の経営資源をどう振り分ければ、よりいっそう安定した収益を得つつ成長できるだろうか。この問いに答えるためには、最も成長性の高い製品はどれか、競争にさらされにくく収益性の高い製品はどれかといった、製品や市場についての情報が必要となる。
これが、「製品ポートフォリオ」の問題てある。複数の製品や事業をもつ企業はすべて、この問題に直面する。

本章と次章でではこの問題を考える。そのための手がかりとなるのが、「市場シェアと利益率とのあいだの正の関係」と「事業の定義」である。本章ではまず、「市場シェアと利益率とのあいだの正の関係」を明確にした重要な研究プロジェクトについて紹介したうえで、この効果を基軸としたマネジメントの手法である「製品ポートフォリオ管理」について検討していく。

5-1 何が事業の収益性を決めるのか
5-2 規模と経験の効果
5-3 製品ポートフォリオ管理
5-4 製品ポートフォリオ管理がもたらすもの

 

第六章、事業の定義

前章で取り上げた製品ポートフォリオ管理は、複数の製品や事業をもつ企業が、各事業のマーケティング・マネジメントを進めていく際の基本的な枠組みを決定する。各事業の目標の設定や、経営資源をどれだけ投入するかの判断は、マーケティング・マネジメントの前提として、最初に行っておかなければならない基本的な應思決定である。そして、この意思決定のために、製品ポートフォリオ管理が行われる。
しかし、さらにその前段階で決定しておかなければならない重要な問題がある。「事業の定義」である。製品ポートフォリオ管理から明確な指針を得るには、事業の定義が行われていなければならない。
事業の定義とは、端的にいうと、その事業で「何を行うのか」を決めることである。こういうと簡単なことのように聞こえるが、事業を定義するには、たいへん奥行きのある思考が要求される。
事業の定義の適否は、企業の価値観や、経営者の信念に依存する部分が大きい。その事業で「何を行うのか」を見極めるには、客観的な分析も必要だが、その結論は、企業の経営者やメンバーが「何をしたいか」で大きく異なってくるからだ。これは、第二者が軽々しく決めつけるわけにはいかない問題である。
とはいえ、「事業の定義は、当事者が思うとおりに決めればよい」と突き放してしまうわけにはいかない。なぜなら、事業の定義をどのように行うかによって、マーケティング・マネジメントの基本的な前提となるさまざまな問題に影響が及ぶからである。したがって、事業の定義は、単なる当事者の価値観や信念の発露ではなく、戦略的な洞察を備えた意思決定でなければならない。

そのためには、事業の定義が、マーケティング・マネジメントにどのような影響を及ぼすのかを多面的に理解しておかなければならない。本章ではこの問題を中心に検討を進めていく。
マーケティングの戦略的な意思決定は、アートであると同時にサイエンスであるといわれる。このマーケティングの二面的な性格は、事染の定義によってそのマネジメントの前提がかたちづくられることに由来しているとも考えられる。
本章では、事業の定義がマーケティング・マネジメントに及ぼす主要な影響として、「マーケティング近視眼や遠祝眼の発生J「製品ポートフォリオ菅理における位樅づけの変化」「事業の基軸となる経営資源と対象市場を判別する間題」を取り上げ、順次検討していく。

6-1 マーケティング近視眼を避けよ
6-2 製品ポートフォリオ管理との関係
6-3 事業を定義し、成長への指針を描く

 

第三部 市場の論理
第七章 消費者行動の理解

「工場を出た段階での製品は、まだ半製品なのです」
あるビジネスマンがこのように語るのを聞いたことがある。製品は、顧客の手にわたった段階で初めて完成品となるというのである。工場で生産された半製品を顧客と結びつけ、完成品とする。これは決して容易な仕事ではない。そのために企業は、困難な課題を時間をかけてひとつひとつ解決していかなければならない。そこでは、第I部で見てきたようなマーケティング・ミックスを構成するさまざまな手法や活動が総動貝される。

とはいえ、漫然とマーケティング・ミックスの諸要素を実行するだけでは、顧客との関係は成立しない。マーケティング・ミックスの諸要素は、いわば目的を達成するための道具である。道具が役立つかどうかは、その道具を使う対象や状況によって変化する。たとえば、斧は、薪を割るのには向いているが、果物の皮をむくのには適していない。長槍は、広い草原では武器として威力を発揮するが、林の木立のなかでは無用の長物となる。道具を活かすには、直面している対象や状況を見極めなければならない。

これは、マーケティング・ミックスの諸要素を活用する際にも当てはまる。マーケティング活動を行うにあたって企業が直面するのは、市場という場である。マーケティング・ミックスの諸要素を役立てるには、この市場の分析が欠かせない。
第Ⅲ部では、企業が市場という場で直面する問題の構造を、「消費(製品・サービスの最終的な買い手である消費者との関係)」「競争(市場で同じ消費者を相手にする競合企業との関係)」「取り引(卸売商や小売商、広告代理店など取引相手との関係)」の3つの局面に分けて順次検討していく。
第7章では消費を、第8章では競争を、第9章では取引を扱う。まず第7章では、企業がマーケティングを展開する際に理解しておくべき、消費者行動の基本的な枠組みとメカニズムを検討することにしよう。

7-1 消費者対応の考え方
7-2 購買意思決定の分析
7-3 使用の細分化ーー多様性への対応
7-4 消費者をいかにリードするか

 

第八章 競争構造の理解

「競争による安定化」というと違和感を覚える人がいるかもしれない。だが、経済学者は、競争を、ある種の均衡した状態、あるいは安定化した状態を導くメカニズムだと考えてきた。この考えは、限界があるとはいえ、産業を分析するうえで一定の有用性をもつ。
競争者の数に注目することで、産業は次のような3つの状態に区分することができる。第1は、似たような製品·サービスを供給している、多数の企業が競争する「完全競争」。第2は、少数の企業が競争する「寡占的競争」。第3は、企業が1社しかいない「独占」である。そして、競争者の数が異なれば、それぞれ違った結果が生まれる。たとえば、完全競争なら、企業が大きな収益を得ることは難しくなる。逆に、競争者の数が少なくなればなるほど、企業は、自社に有利な方向で価格を設定することが容易になる。特に、独占状態の場合には、競争の問題に対応しなくてよいため、企業は、自社の収益の水準を高めることだけを考慮して価格を設定することができる。

このように、産業の枠組みを固定的な前提と見なすことで、競争状態と企業の成果や行動とのあいだに一定の関係を見出すことができる。このような競争の作動を、「構造としての競争」と呼ぶことにしよう。
本章では、この「構造としての競争」の分析を中心に、競争についての理解を深めていく。経済学の知見である「競争が、企業の行動や成果を規定する」という命題を紹介しながら、自社の属している産業がどのような競争状態にあるかを知ることが、マーケティングのための現状分析や将来予想に役立つことを確認していく。
とはいえ、競争はダイナミックで生々しい世界である。競争には、「構造としての競争」の枠組みそのものをつくり替えていく働きがある。だからこそ、競争を通じて社会や産業が活性化するのである。この問題については、第10章で、あらためて取り上げることにする。

8-1 競争の場の枠組み
8-2 競争が規定する産業の収益性
8-3 戦略グループ
8-4 業績の違いを生み出す移動障壁

 

第九章 取引関係の理解

「はしがき」でも述べたように、マーケティングを進めようとすると、「他者との関係」をマネジメントすることが欠かせなくなる。マーケティングの本質が、他者との関係のマネジメントであることは、たとえば第7章で見たように、顧客となる消費者との関係を考えるとわかりやすい。
だが、この他者との閲係は、消骰者との関係だけではない。第8章で取り上げた競争の問題も、マーケティングを進めるうえで避けて通ることのできない他者との関係である。このようにマーケティングにあたっては、消費者との関係に加えて、自社以外の企業との関係にも目を向けなければならない。
さらにいえば、他の企業との関係において生じるのは、競争の問題だけではなし、。マーケティングを進めるためには、生産財メーカーや流通業者などとの取引を通じて、自杜の事業に必要な原材料や部品を仕入れたり、販売を委託したりすることが必要となる。産業の内外のさまざまな企業は、競争の対象(ライパル)であると同時に、協働の対象(パートナー)でもある。

こうした取引関係のもとにある企業のうちのいくつかは、最終的な顧客である消翡者に到達するまでの中間的な顧客としてとらえることができる。この点において、消質への対応と収引への対応の区分は、便宜的なものでしかない。だが、両者が決定的に異なるのは、必要に応じて取引関係を自社内に統合してしまうことができる、という点である。トヨタ自動車や松下電器産業のような大企業が、生産財メーカーや流通業者が行っている業務のすべてを自社内に統合することは、困難かもしれないが不可能ではない。しかし、最終的な顧客である消骰者の役割を自社内に統合し、自らが最終的な消費をすべて行うようにすることは不可能である。

この章では、マーケティングにあたって、取引関係の基本的な構造をデザインするための論理を提示していく。取引関係に特徴的に見られる問題は、協力関係にある他社と自社との境界設定の問題である。以下では、まず、この取引か統合かという選択問題を検討したうえで、その両者に見られるトレードオフ関係を解決しようとするとき、中間組織という独特の取引の形態が導き出されることに言及する。

9-1 取引関係の構造
9-2 統合か取引か
9-3 取引コストと資源蓄積
9-4 中間組織の昨日とマネジメント

 

第四部 市場と事業のダイナミクス
第十章 プロセスとしての競争

第8章で検討したように、企業問の競争は、産業あるいは戦略グループという枠組みのもとで展開される。同一の産業や戦略グループに属している企業では、直面している需要や、利用する技術、あるいは事業構造がよく似ている。そのため、同一の産業や戦略グループに属している企業間の競争は、勝つか負けるかといった激しいものとなりやすい。一方、異なる産業や戦略グループに属している企業問の競争は、互いの参入や移動を阻むさまざまな障壁を挟んでいるため、企業間の棲み分けが成立しやすい。
企業あるいは事業の収益性にかかわる基本的な条件が、この産業や戦略グループという枠組みによって規定されるということは、すでに第8章で指摘した。しかし、こうした考えは、競争という現象のひとつの重要な側面はとらえているものの、すべてではない。第8章では、便宜上、産業あるいは戦略グループという競争の枠組みがあらかじめ存在しており、そこに企業が参人する、というかたちで問題を考えてきたが、実際に企業が直面するのは、より複雑な現実である。産業や戦略グループという競争の枠組みは、企業間の競争が始まる以前から存在しているのではなく、企業間の競争のプロセスを通じてつくり出されていくものである。

たとえば、清涼飲料市場では、この数年間、緑茶をめぐる激しい競争が展開されている。しかし、かつて緑茶が、消涼飲料としてコンビニエンスストアの店頭や自動販売機に並ぶことはなかった。ところが、消涼飲料市場でのウーロン荼や紅茶などの成功に刺激され、緑茶を消涼飲料市場で積極的に販売しようとする企業が現れた。現在、緑茶は、ウーロン茶や紅茶をしのぐ大きな市場に成長している。さらに近年では、新しいプレンド茶や中国茶、あるいは健康によい成分を豊富に含んだ緑茶など、新しいカテゴリーをつくろうとする動きが広がっている。
このように、競争は、産業や戦略グループといった一定の枠組みのなかで展開されるプロセスであると同時に、この枠組みそのものを新たにつくり出すプロセスとなる。そして、このダイナミックな競争の理解に立ったとき、産業や戦略グループは、「企業の行動や成果を決める安定した構造」ではなく、「日々新たにつくられ、変化する戦いの場」として理解されるようになる。

本章では、このダイナミックな競争の作動を提示し、そのなかで企業がマーケティング・マネジメントを展開していくときに直面する、さまざまなメタ問題やジレンマを検討する。

10-1 新機軸を生み出す競争
10-2 企業の個性をつくり出す競争
10-3 産業の枠組みを構成する競争
10-4 戦略的ジレンマを生み出す競争

 

第11章 産業のライフサイクル

競争とは二面的なプロセスである。一面では、競争は、企業の収益性にかかわる構造的な条件を規定するプロセスである。これは、産業あるいは戦略グループという枠組みのなかで展開されるプロセスである。ところが一方では、この産業や戦略グループという枠組み自体が、企業問の競争を通じて形成される知識や情報によって再構成される。そのため、競争のプロセスは、ダイナミックな変化を生み出すプロセスとなる。このことは、第8章と第10章を通じて確認してきた。

とはいえ、新たな産業(あるいは戦略グループ)を生成するためには、企業は競争の問題だけでなく、消費や取引の問題にも対応しなければならない。あるいは、その展聞に応じて、投資や新たな経営資源の蓄積をはからなければならない。そこで、本章では、消費や取引、あるいは企業組織との関係にも視野を広げて、「産業」と呼ばれる競争の場が、どのようなプロセスで誕生し、定着していくのかを、時問の経過に沿って確認していくことにする。
さらに、一度生成した産業の枠組みは不変ではない。産業は、時間の流れとともに大きく発展していくことがある。たとえば、写真フィルムという商品は、最初期には現像サービスやプリントサーピスとセットで販売されていた。フィルムを買えば、現像とプリントはその写真店が無料で行ってくれたのである。ところが、やがてカメラが普及し、誰もが日常的にフィルムを使うようになると、フィルム・メーカーは流通チャネルを拡大し、行楽地や駅の売店などあらゆる場所でフィルムを販売するようになった。消費者が思いついたときに、いつでもフィルムを購買できるようにするためである。そして、こうした購買スタイルが一般化するとフィルムの販売と現像・プリントは、異なる店舗で別々のサービスとして行ったほうが消費者にとっては便利になる。

このように、マーケティング・マネジメントにあたって配慮するべき要因は、産業が発展のどの段階にあるのかによって大きく異なってくる。本章では、生成し発展するプロセスとして産業をとらえる際の代表的な概念モデルである「製品ライフサイクル」の考え方を紹介し、このダイナミックなプロセスのなかで、企業はどのようにマーケティング・マネジメントを展開すればよいかを考えていく。

11-1 製品の誕生から産業のライフサイクルへ
11-2 産業の離陸 ①デファクト・スタンダード
11-3 産業の離陸 ②拡張製品
11-4 産業の成長期
11-5 産業の成熟期と衰退期

 

第5部 市場資源構築のマネジメント
第12章 チャネル資産のマネジメント